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第九章 「∼日本にいる中国人」

  七年ぶりに再会した王恒。彼は、母親が日本人と再婚したことから、四年前に東京へ来ていた。そして王恒が日本で親しくしている中国東北出身の仲間を紹介され、春は、中国東北人特有の空気感に懐かしさと居心地の良さを感じる。何も不自由することはないが、何かが欠落したように感じられた日本での生活。王恒と再会したことで、春は再び中国に気持ちを馳せるのであった。

  高校卒業を間近に控えていた頃、王恒の仲間の一人である安雲龍から、チャイニーズ・ドラゴンの兄弟頭の一人、小峰を紹介される。彼が語ったのは、在日二世が日本へ来てから味わった差別と偏見、そして、中国人の誇りの為、同胞が不当な目に遭わない為に、日本で暴れ、成り上がるに至るまでの経緯、それと引き換えに失われゆく人との繋がり、打算的友情へと変移した仲間との絆……しかし一方で、日本人に歩み寄り、後代の為勤労に働く道を選んだ二世たちも多くいることを再度知る。

  ある日、安雲龍が日本人のチンピラといざこざを起こし、警察署に拘留されてしまう。迎えに行った春と王恒は、安雲龍の口から、中国人の日本での肩身の狭さ、未だ密かに根づいている中国人に対する日本人の差別的な思想を、彼の怒りと共に目の当たりにすることとなった。

  どこまで行こうが、どこにいようが、振り切ることのできない過去のしがらみに捉われ続ける二世や三世。両国を見て、また、両国民を見て、そして、どちらの国の人間でもある春は、まるで、今度こそ自身の存在義を探し求めようとするかのよう、北京へ留学に行く選択をする。

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