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第八章 「分岐∼日本軍隊員と引揚者」
ハルビンでの留学生活を終え、日本へ帰国後六年の歳月が流れていた。高校卒業を控えていた春は、学校生活と老人ホームでのボランティア活動に勤しむ日々を過ごしていた。そして、孫小蕊との交際も遠距離恋愛という形で依然続いていた。
老人ホームで親しくしていた鈴木さんという入居者が、ある日昔の話を春に聞かせた。鈴木さんは、元七三一部隊の隊員だったのだ。当時の生々しく、惨たらしい人体実験やその施設での彼の仕事内容を聞いた春は、自ら蓋をしようとしていた日中間の歴史と再び直面することとなり、鈴木さんの体験を聞いた春は、自身のルーツを再認識しようと、残留孤児だった祖母と共に、当時彼女と生き別れとなった親族の元を訪ねた。
引き揚げの際祖母と生き別れとなった彼女の姉兄から、日本軍による侵略時代の中国での彼女たちの暮らしや、引き揚げに追い込まれるに至るまでの経緯、そして想像を絶する逃避行の話しを聞いた。紙一重とも言えるすれ違いや、思い違い、そして、残した側と残された側の話しを改めて照らし合わせた春は、感慨に耽ると同時に、自身の在り方を再認識した。それでも自分は果たして中国人なのか、日本人なのかという心の葛藤が消えることはなかった。
祖母の姉兄を訪ねて十日ほどが経過した頃、彼女である孫小蕊からある知らせを受ける。それは、小学校時代のルームメイトであり、卒業後他校へと進学した王恒が、日本にいるという内容だった。
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