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第三章 「きっかけ∼残留孤児とその養父母」

  母との再会を経て、大型連休が開けた後、春は董巍とバスケットボールの勝負を交える。その勝負を通して董巍は次第に春を認めるようになった。それを機に、春に対する周囲からの差別的な言動は徐々に減ることとなる。

  この年、最高学年によるバスケットボールのクラス対抗大会が行われた。春はルームメイトたちからの推薦もあり、クラスを代表して出場し、クラスを準優勝へと導いた。この大会を通し、春はようやくクラスメイト達、そして周囲の生徒たちにも認められるようになる。ちょうどこの頃、クラスメイトの時一婷が春に想いを寄せていたが、春は彼女の気持ちに気付くことはなかった。担任の王先生も春のことを認めるようになり、いつしか、春を我が子のように大事に身守るようになる。

  ようやくこの環境に馴染み始めた頃、春の元へ日本から祖母が様子を窺いにやってきた。祖母と共にハルビンの街を歩く二人。春は祖母の口から、残留孤児が辿らされた運命について話を聞かされる。

終戦後の引き揚げという逃避行の末生き別れとなった祖母と肉親の話し、その後祖母を育てた養父母との話し。ハルビンで過ごした平穏な日々に突如、生き別れとなった肉親からの便りが届く。帰化するか否かの決断を迫れた祖母と家族。その頼りは、祖母だけでなく、家族、そして祖母の周囲にいる皆の心を揺るがせるものだった。結果日本へ帰化することを決断した祖母であったが、帰国後も、日本の社会へ適応できず、また、祖国にも受け入れられず、数々の困難が立ちはだかったのである。

  今でこそ祖母と春は共にハルビンの地を共に歩くことができるが、そこへ至るまでの祖母が歩んだ道のりは、あまりに過酷なものであった。

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