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第二章 「∼自分のルーツ」

  留学生活最初の一週間を終えた春は、心も体も疲弊しきっていた。普段は学校で寮生活を送る春だが、週末は父の実兄にあたる叔父の家に一時帰宅する。それまでまともな歴史教育を受けて来なかった春は、中国へ来て、まるでこれまでの自身の生き方全てを否定されたかのようだった。それまで当たり前だと思っていたこともここではそうでなく、どう振る舞っても周囲に認められることのない歯がゆさが春の心を蝕んでいた。

  再び始まった二週目の学校生活。寮へ戻った春の元へ、劉帥という他クラスの生徒が訪ねて来た。劉帥と春は意気投合することになる。周囲の生徒たちからのイジメが過激さを増す中、春はルームメイトたちに相談することもなく、一人でただ必死に歯を喰いしばっていた。ある日再び董巍に呼び出されてしまった春に、劉帥が同行した。劉帥と董巍が以前から対立し合っていたこともあり、春は董巍たちの暴行に劉帥を巻き込んでしまう。そして、これまでの顕著なイジメが全て董巍により意図されており、また、そんな統率力のある董巍を影で利用し唆していた黒幕が馬志鵬だったことを知った春は、現状を打破するべく、ある考えに辿り着く。それは、春が日本の学校にいた頃から得意としていたバスケットボールだった。バスケットボールが盛んなこの学校で、春は董巍に一対一の勝負を申し込む。

  留学生活がちょうど一カ月ほど終え、大型連休を迎えた頃、母がハルビンへ春に会いに来た。そして母の口から、残留孤児である祖母が、終戦後どのような経緯で日本へ帰化したのか、また、それ以前の彼女たちのハルビンでの生活等、母の知る限りの昔の話が春に語られた

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