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第十一章 「天命∼不確かな者の終着駅」

  大学生活残り一年となった頃、春は、ようやく自身の中国での目標を見つける。そんなある日、義兄の李明から電話がかかってきた。その内容は、祖父の死去を告げる内容だった。

  急きょ祖父の家に集合した春と義兄、それぞれの家族。全員に渡された祖父の遺書は、祖父の中国人としての誇りを皆に託そうとする内容であった。そして、祖父の死を機に、義兄は幼い頃から春に抱いていた感情を密かに膨らませる。

  北京へ戻って数カ月が経過した頃。領土問題をめぐり日中の政治関係は悪化。そんな中、春はいつもの仲間たちと日式居酒屋で、各々の夢を語り合っていた。まさにその頃、反日のデモ隊が春たちのいる店へ押し寄せていた。

  異口同音に声を荒げ、刻一刻と近づいてくるデモ隊は、店の中へと押し寄せて来た。春は武警である義兄に助けを求めたが、デモ隊の進撃に巻き込まれてしまった春を前に、義兄は春を助けようとはしなかった。デモ隊にやられ気を失っていた春が目を覚ますと、そこは、パトカーの中に義兄と二人。義兄は幼い頃から春に劣等感を抱いており、また、日本の血を引く春に対し恨みを抱いていた。憎しみの根源、即ち真の敵は、形を変えながらも最も近い所に潜んでいたのかもしれない。春自身も、デモ隊である中国人民を傷つけたことから、義兄は春に強制退去を告げる。その処分は、ようやく中国で目標を見つけた春にとっては、あまりにも無情な決定であった。

  戦争により誕生した残留孤児、そしてその後代。自身と周囲との相違、自身と親との隔たり、社会において未だ不確かな存在である残留孤児三世の春は、それでも、自身に引き継がれた血に誇りを持つ為、ある行動に出るのであった。

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